わたしがあそんであげる
満3歳そら組の子どもたちは、それぞれ3歳の誕生日を迎え、3歳になると入園してきます。ですから、4月に入園する子どもはとても少なく、年度の途中からどんどんクラスのメンバーが増えていくのです。
11月になり入園してきたA子ちゃん。幼稚園に入園することはとても楽しみにしていたようですが、朝の登園でお家の方と別れる時には寂しくなり、ぽろっと涙も・・・ それはそうです。例えば、入園を旅行に例えるならば、今までの未就園児クラスでは保護者と一緒に登園し、保護者が添乗員さんの役割を果たしていたようなものです。しかし、入園となると、添乗員の保護者はいなくなり、現地係員の「先生」がいるだけで、「だいじょうぶ!せんせいがいるからあんしんして」と言われても、よくわからない言葉で話しかけてくるし、一番頼れる添乗員さんはいなくなるし、もうどうすればいいの?・・・と言った状態なのだと思います。
ここで活躍するのが、新入園児の気持ちを一番理解し、心配してそばで優しく見守ることができる、少し先に入園した同級生や年上の子どもたちなのです。
年中組のB子ちゃんは、入園前からA子ちゃんのことを少し知っており、A子ちゃんの入園を楽しみにしていました。入園初日、A子ちゃんが泣いているとB子ちゃんが心配そうにやってきて、A子ちゃんの様子をしばらく見ていました。そしてB子ちゃんはこう言いました。「わたしがあそんであげる!」 その言葉は、私に任せてと言わんばかりのとても力強いものでした。実は、B子ちゃんも入園当初、同じように寂しくて悲しくていっぱい泣いた経験があったのです。私は、B子ちゃんならと思い、信頼し、B子ちゃんにA子ちゃんを託しました。
B子ちゃんがどのようにA子ちゃんと遊ぶのかを少し離れたところから見ていました。すると二人はブランコに行き、A子ちゃんはブランコに乗り、B子ちゃんがそうっとそうっとブランコを押してあげていました。次第にA子ちゃんの涙も止まり、B子ちゃんの優しい笑顔に見守られながら、二人だけの優しい時間がながれていきました。優しいお日様の光を浴びたこの二人の姿は、西洋画の主人公のように見えました。
ここで、重要なのがB子ちゃんがなぜたくさんの遊びの中から「ブランコ」を選んだのかと言うことです。一番に考えられるのは、単純にA子ちゃん自身がブランコが好きだからという理由です。もちろんA子ちゃんに聞けば、その答えはすぐにわかるのかもしれません。でも、理由なんてないのかもしれません。ただ、一つはっきりしていることは、B子ちゃんが寂しさや悲しさを感じているA子ちゃんの気持ちをそのまま丸ごと受け止めて、楽しさを伝えてあげたということです。「ブランコ」は日常の生活では絶対に経験できない、特別な世界を体験させてくれる面白い遊具だと思っています。もしかすると、B子ちゃんはそのことを知っていて、A子ちゃんにもその楽しさを味わってほしくて、そして今だけ少しだけ、特別な世界へと連れて行ってあげようと思ったのかもしれません。自分がついているから大丈夫だよと言う気持ちと一緒に・・・ 保育者は、みんなから「せんせい」と呼ばれていますが、それは子どもたちよりただ先に生まれただけのこと。子どもにとって本当の先生は、一緒に生活している子どもたちなのかもしれません。